東京高等裁判所 昭和34年(ラ)189号 決定
不動産登記法第三十五条によれば代理人によつて登記を申請する場合にはその権限を証する書面すなわち委任状を申請書に添附することを要しこの委任状には登記の目的たる不動産を表示すべきことは勿論であるから、かかる不動産の表示を欠く委任状に基きなされた代理人による登記申請は不適法であることを免れないけれどもその申請が登記官署により受理されたときはその登記が実体上の権利関係と一致する限りなお有効な登記というに妨げないと解すべきである。記録によれば本件競売申立の基本たる抵当権はもと宮下清次郎が抗告人に対する金百万円の貸金及びこれに対する期限後の損害金債権の担保として抗告人所有の本件不動産に設定を受け昭和二十八年二月二十日東京法務局墨田出張所受附第二、八二〇号を以てその旨の登記を了した抵当権であつて、宮下はこの抵当権を債権と共に同年十月十五日万有興業株式会社に譲渡し同会社は更に昭和三十年六月二十七日右債権及び抵当権を川口光三(本件競売申立人)に譲渡し同人はその権利を取得したのであつて右譲渡については、それぞれ抗告人に対する譲渡通知及び譲渡の附記登記がなされていることを認め得るところ、抗告人提出の前記疎明資料によれば、宮下清次郎のためになされた前記抵当権設定登記の申請書には設定者植田徳三(本件抗告人)により代理人小坂三郎に対する委任状が添附されていたが同委任状には登記物件の表示がなかつたものと認められるけれども、その登記申請が前記出張所において受理せられ抵当権設定登記がなされたこと及び宮下が現実に抗告人から本件不動産に抵当権の設定を受けその権利者であつたことは右に認定した通りであり他にこの認定を覆すべき資料はないから右の抵当権設定登記が有効であることは前段説明により明らかである。
(岸上 下関 安岡)